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2011.11.03

●塩田平「訪塔記」.安楽寺

えー、先日信州旅路の後日談。
早朝より松本から上田へ向かい、先ず訪れたのは青木村「大法寺」。
その後はバスと電車を乗り継ぎ別所方面へ移動致しました。
そんな訳での信濃路訪塔記、「安楽寺篇」で御座います。

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【写真上】安楽寺八角三重塔。(国宝)
鎌倉末期(1290年代)建立、八角三重塔婆.初重裳階付、杮葺、塔高18.69m。
初重柱間:正面.桟唐戸、脇面.縦板張。 二三重柱間:全て連子窓。
組物:裳階部.刳形木鼻付出組.身舎各重.三手先。
中備:裳階部.平三斗詰組.身舎各重.三手先詰組。
軒組:各重全て二軒扇垂木。

古建築にて唯一現存する八角塔。
建立年代的に南宋末から元初頃の中国五山様式に範を採ったと思われる。
嘗て存在したとされる多角層塔は上代に大和西大寺東塔(八角八重.但し造営中に四角五重塔に変更されたとされる)、平安期に法勝寺(八角九重)等が記録に残るだけで、非常に稀有な遺構。
亦、裳階付の多重塔も他には三基(法隆寺五重塔、薬師寺東塔、海住山寺五重塔)が残るのみ、加えて純禅様の多重塔としても類例は殆ど無く、これらの点でも貴重な文化財建造物と云える。

2
【写真上】同.背後の山腹より眺む。
黄金色に輝く杮屋根が美しい。
実は同塔、今年七月から三ヶ月間行われていた屋根の葺き替えが終わった計り。
作事を終えたのが10月20日ですから、葺きたて三日目の「ピッカピカ杮」。
今回の信濃訪塔行脚、これが狙いでやって来た様なものです。

3
【写真上】同.側面より。
土間建にて縁.高欄を設けず、柱元には礎盤及び粽をつける正規の禅宗様。
屋根軒の緩やかな稜線、隅角部の反り具合が見事。

8
【写真上】組物近景。
隙間無く配された三手先の詰組と、放射線状に並ぶ二軒の扇垂木。
整然且つ幾何学的な造形美は正に禅宗様のそれ。

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【写真上】組物近景。
裳階部の出組.平三斗詰組、弓形連子の様子が良く見てとれる。
貫は地貫.内法貫.頭貫の三本を通し、頭貫と台輪には刳形木鼻を付ける。

屋根八角の頂(端点)は全て縦同一戦上に揃っているが、この様に下方から見上げると両眼視差(視覚のズレ)により、屋根頂点が互い違いに交錯している様に見える。

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【写真上】各層眺望と三重塔図面。
各層の平面逓減比は下層より「1:0.60:0.52:0.43(実測図比)」。
一層部が極端に大きく、他の各層(裳階部含)の逓減は可也小さい。
亦、塔高逓減比は下層より「1:0.33:0.55:0.50(目視採測比)」。
一層目が突出して高く、極端に低い裳階部を挟む形で二三層がほぼ同じ高さ。

これら造形意匠の特色が、八角の屋根形状と相俟って「不規則なリズム感」とも云うべき非律動的な諧調を生み出し、鑑賞の妙味を生んでいる。
更に視点の「縦位置」を変えて見ると、その表情は更に無限に変化していく。

10【写真左】本堂横より仰望する三重塔。
同塔は大法寺塔と同じく、主要堂宇より離れた小高い山腹上に建っている。
寺社参詣の折、建築物の目前迄近づける様になったのは近代以降の事であり、基本的には「遠くから拝する」ものだった。
従い元来の参拝(鑑賞)視点も、この位置からが正しいものであろう。

と、そんな訳での「塩田平逍遥」、この後は独鈷山麓の「未完の塔」へ向かうのでした。
続く。

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